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Netflixのドラマ『ザ・ウォッチャー』は、郊外に理想の家を買った一家のもとに、差出人不明の手紙が届きはじめる話です。 全7話。 『アメリカン・ホラー・ストーリー』のライアン・マーフィーとイアン・ブレナンが手がけました。
ここから先は結末まで触れます。 実際に起きた事件との違いも書きます。 まだ観ていない方は、先に本編をどうぞ。
結末はどうなったのか
最終話まで観ても、謎はほとんど解けません。 キッチンでサンドウィッチを食べていた男は本当にジョン・グラフだったのか。 そもそもジョン・グラフは家族を殺していたのか。 ミッチとモーは本当に血を飲んでいたのか。 どれも答えが出ないまま終わります。
これは投げ出しているのではなく、そういう作りだと考えています。 ディーンが未解決事件に取り憑かれておかしくなっていくのと同じことを、観ている側にも起こす。 作品そのものを未解決事件にしてしまう狙いです。
ただ、腑に落ちない点はいくつも残ります。 教師のロジャーはなぜジョン・グラフに見覚えがあり、家族のことを聞いたのか。 あの家に固執していたロジャーは何か知っているのか。 その話になったときにジャスパーの様子がおかしくなったのも気になります。 答えの出ないことを考え続けてしまう。 未解決事件の本当の怖さは、たぶんそこにあります。
ウォッチャーの正体は誰だったのか
最有力はカレンでしょう。 カレンは最初から家を売らせたがっていましたし、ブランノック一家が手放した直後に自分が買っています。 ウォッチャーの噂で家の価値は下がっていたので、安く買えたぶんカレンには得です。
ただ、最後にノラと話す場面で、カレンは手紙の主は自分ではないと言っています。 最後まで嘘をついたのか、本当に違うのか。 ここも決着しません。
少なくともエレノラは白でよさそうです。 ディーンが未解決事件に取り憑かれてしまうことを心配していた、本作では数少ない良い人でした。
もうひとつ、回想そのものを疑わせる仕掛けがあります。 癌を患ったセオドラが嘘をついたときの回想に、いるはずのないセオドラが映り込んでいる。 あれを見てしまうと、ジョン・グラフの出てくる回想も本当だったのか分からなくなります。
本当のウォッチャーは誰だったのか
この作品でいちばん面白いと思ったのは、話が進むほど「ウォッチャー」に当てはまる人が増えていくところです。
最初は手紙の差出人だけでした。 そこへ一家を見張る隣人が加わり、年頃の娘を過剰に気にするディーン自身も、ある意味でウォッチャーになります。 娘が投稿した動画をきっかけに、友人や同僚までが一家を見る側に回る。
つまり手紙の主はきっかけでしかなく、そこから派生していった人々の目のほうが本当のウォッチャーだった、という読み方ができます。
娘の告発動画の場面は、正直に言うと好きではありませんでした。 告発というには認識のずれがあり、見た人に誤解を与える내容になっています。 そのせいでディーンは職場での立場を失い、ノラはクラブの会員資格を止められる。 ただ、伝えたかったことは分かります。 ネット上の情報が必ずしも正確とはかぎらない。 ディーンがダコタを娘から遠ざけたのはダコタをウォッチャーだと信じていたからで、事実に近いのは娘のほうでした。
実話とどこまで同じなのか
元になったのは、ニュージャージー州ウェストフィールドの657ブールバードで実際に起きた事件です。 ジャーナリストのリーヴス・ウィードマンが2018年11月にThe Cutへ書いた記事が広く読まれ、ドラマ化につながりました。
デレクとマリアのブロードゥス夫妻がこの家を買ったのは2014年6月。 約135万ドルでした。 引き渡しから数日で、最初の手紙が届きます。 差出人は自らを「ウォッチャー」と名乗り、祖父の代からこの家を見てきたと書いていました。 3人の子どもたちのことは「新しい血」と呼ばれていました。
ドラマとの最大の違いは、実際の一家は一度もこの家に住んでいないことです。 怖くて入居できないまま、家を抱え続けました。 2019年に売却しましたが、価格は約95.9万ドル。 買ったときより40万ドルほど安い金額です。
捜査では隣家に疑いが向いたものの、証拠は出ませんでした。 封筒から採れたDNAは女性のものを示しましたが、一致する相手は見つかっていません。 元FBI捜査官を含む私立探偵も差出人を特定できず、誰も起訴されていません。 ドラマと同じく、実際の事件も未解決のままです。
怖いのか、それとも奇妙なのか
予告編を観たときは、てっきりホラーだと思っていました。 実際に観てみると、怖さよりも人間の奇妙さが際立つサスペンスです。
庭のビーチチェアで日光浴をするミッチとモー、隣人のパールとその息子ジャスパー。 まともでない言動に腹が立ったり怖くなったりするのですが、ときどきまともな顔を見せるので、印象が定まりません。 もしかしてこの人たちはまともなのでは、と一瞬思わされる。 そこが面白いところです。
ホラーとしての怖さを期待すると、ある程度ホラーを観ている人には物足りないと思います。 ライアン・マーフィーの作品は昔から、恐怖よりも奇妙さのほうに寄っています。 本作もその線上にあります。
画面と音のつくり
映像の色が変わっていくのが印象的でした。 一家が初めて家を見に来る場面は賑やかで、色も鮮やかです。 それが後半になると、くたびれた灰色が目立つようになる。 広くて心地よさそうだった芝生まで、元気がなく見えてきます。
音も同じです。 都会の場面ではバスや電車の騒音が意図的に強調され、家の中ではスマホのアラームが耳につく。 ところが郊外に移ると、鳥の声も車の音も不自然なほど聞こえません。 都会の騒がしさから郊外の静けさに切り替わると、どうしても郊外のほうが心地よく感じてしまいます。
音楽は意外でした。 サスペンスやホラーだと掴みどころのない不気味な曲が多いところ、本作はテンポの速い、急かすような曲です。 不穏ではあるのですが、どちらかというと気分が上がる。 ここは好きでした。
『呪いの館』と似すぎている
高く評価したうえで、ひとつだけ言っておきたいことがあります。 「これ、前にも観たぞ」という感覚です。
ライアン・マーフィーの過去作、とくに『アメリカン・ホラー・ストーリー』第1シーズン『呪いの館』との共通点が多い。 家に取り憑かれていく一家、癖の強い隣人たち、土地そのものが抱えている過去。 ネタバレになるので詳しくは書きませんが、『呪いの館』を最後まで観ると、さらに重なる点に気づくはずです。
私はマーフィーの過去作に好きなものが多いので本作も楽しめましたが、好きだからこそ引っかかりました。 作風が共通するのはある程度仕方ないとしても、これが続くと似た作品ばかりになりかねません。 逆に、そこを崩してくるなら次はもっと面白くなると思います。
全7話という長さは合っていました。 マーフィーの作品は熱狂的なファンがつく一方で、苦手な人もはっきり分かれます。 短くまとめたぶん、途中で離れさせずに最後まで運べていたと思います。
シーズン2はどうなっているのか
Netflixがシーズン2の制作を発表したのは、配信の翌月にあたる2022年11月です。 それから4年近くが経ちましたが、2026年8月の時点でも公開日は発表されていません。
止まっている理由としては、2023年の脚本家と俳優のストライキがまず挙げられます。 このとき多くの作品が撮影を止め、再開後も順番待ちが続きました。 ライアン・マーフィーはNetflixで並行して何本も抱えているため、その列に入っていると見るのが自然です。
決まっていることも、いくつかあります。 制作にはライアン・マーフィーとイアン・ブレナンが引き続き名を連ねています。 主演のナオミ・ワッツは製作総指揮としても名前が入っており、シーズン1から続投しています。 ほかにエリック・ニューマン、パリス・バークレイ、ブライアン・アンキレスらが並びます。
撮影については、業界向けの制作情報にいくつか動きが出ています。 2026年6月中旬に撮影を始めて2027年3月中旬に終える、という時期が一度掲載されました。 その後、開始は2026年10月でニューヨーク、という情報も出ています。 ただし、これらはいずれも業界誌の掲載であって、Netflixが認めたものではありません。 報じた媒体はNetflixに2度問い合わせましたが、回答は得られていません。
つまり、いま言えるのはここまでです。 作ること自体はNetflixが公式に認めている。 制作陣も主演も残っている。 しかし撮影がいつ始まるのか、いつ配信されるのかは、まだ誰も発表していません。
中身についても確定していません。 シーズン1は657ブールバードの事件を描き切っているので、続けるなら別の事件を扱う一話完結型になるのではないか、という見方が出ています。 マーフィーは『アメリカン・ホラー・ストーリー』でも『アメリカン・クライム・ストーリー』でも、シーズンごとに題材を変える形を取ってきました。 ただしこれも観測であって、発表ではありません。
制作の総責任者であるエリック・ニューマンは2024年に、次のシーズンについて「実現する見込みをとても楽しみにしている」と述べるにとどめています。 この言い方が、いまの状況をよく表していると思います。
答えが出ないまま置いていかれる
全7話が一度に配信されたのは、この作品に合っていました。 1話あたりの体感は短く、休む間もなく次に進みます。 手紙が届くたびに一家が壊れていくのを、止まらずに見せられる。 一気に観ることを前提に組まれた配信のしかたが、そのまま作品の圧力になっていました。
そして最後まで観ても、何ひとつ確定しません。 ウォッチャーが誰だったのかも、ジョン・グラフが実在したのかも分からない。 実際の事件が10年以上たっても未解決であることを思えば、そう終わるほかなかったのだとも言えます。
ホラーとして怖がりに行くと、たぶん物足りません。 奇妙な人間たちを眺めに行く作品です。 そして観終わったあと、答えの出ないことをしばらく考え続けることになります。 ディーンがそうなったのと同じように。