『マダム・ウェブ』ネタバレ感想_酷評多めのSSU最新作に続編の未来はあるのか?

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マダムウェブのアイキャッチ レビュー

マーベル・シネマティック・ユニバース、通称MCUとしても知られるこれはアイアンマンやキャプテンアメリカ、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーなど異なる作品のキャラクターが同じ世界を共有するシェアードユニバースとして成功しました。

そんな大成功したマーベルキャラクターのシェアードユニバースがある一方で、もう1つのユニバースがあることを忘れてはいけません。

それがSSU

SSUはSony’s Spider-man Universeの略称で、その名の通りソニーが映像化の権利を有するスパイダーマン関連のキャラクターで構成されたシェアードユニバースです。
SSUは2018年公開の映画『ヴェノム』から始まり、2021年には続編の『ヴェノム・レット・ゼア・ビー・カーネイジ』、2022年には『モービウス』などが続きました。
そして2024年には今回扱う映画『マダム・ウェブ』の他にも『クレイブン・ザ・ハンター』そして『ヴェノム3』が公開予定です。

ただこのSSUは少々特殊で、最初に話したMCUのようにうまくいっているとは言えない現状になっています。
有名なレビューサイト「Rotten tomatoes」でこれまでのSSU作品の評価を観てみましょう。

Rotten tomatoesでは批評家のスコアをトマトメーターで表し、観客のスコアをオーディエンススコアで表しています。
トマトメーターは3つのアイコンに分かれていて、その作品に対する批評家の肯定的なレビューに応じて変化します。
批評家の肯定的なレビューが60%を超えるとFlesh、60%未満だとRotten(腐った)トマトのアイコンが付きます。
一方でオーディエンススコアは映画のチケットを買った人のレビューのうち、3.5以上の星を付けた人の割合に応じて変化します。
60%以上の人が3.5以上の星を付けると満タンのポップコーンのアイコンが、
3.5以上の星を付けた人が60%未満の場合は倒れたポップコーンのアイコンが付きます。
それを踏まえて評価を見てみると、
2018年に公開された『ヴェノム』はトマトメーター 30%, オーディエンススコア 80%、
2021年の『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』はトマトメーター 57%, オーディエンススコア 84%
2022年の『モービウス』はトマトメーター 15%, オーディエンススコア 71%
そして今回公開された『マダム・ウェブ』はトマトメーター 17%, オーディエンススコア 67%
となっており、批評家とオーディエンスのスコアに大きな差があることが分かります。

同じソニーの『スパイダーバース』は
『イントゥ・ザ・スパイダーバース』がトマトメーター 97%, オーディエンススコア 94%
『アクロス・ザ・スパイダーバース』はトマトメーター 95%, オーディエンススコア 94%
と高評価を叩き出しており、興行成績も成功しているためSSUとの差が顕著に表れています。
公開される予定だった SF『エル・ムエルト』は企画終了の噂があるなど、なかなか良いニュースが出てこないSSUですが、そんな中今回は複数のヒーローが活躍する作品が公開されました。

それが『マダム・ウェブ』です。

マダム・ウェブは1980年11月に発行された『アメイジングスパイダーマン』で初登場したキャラクターで、予知能力を持つキャラクターです。
主人公のキャシー・ウェブを演じるのは『フィフティ・シェイズ』シリーズのダコタ・ジョンソン、
行動を共にすることになるジュリア・カーペンターを演じるのはシドニー・スウィーニー、
マティ・フランクリン役にセレステ・オコナー、
アーニャ・コラソン役にイザベラ・メルセド、
そして、エゼキエル・シムズを演じたのはタハール・ラヒムになっています。
他にもエマ・ロバーツとアダム・スコットが役柄不明でキャスティングされました。

ここから先は『マダム・ウェブ』のネタバレを含みます。

SSUの現状

日本で公開される前から怪しい評判が聞こえてきた本作ですが、個人的にはそれをどうにか視界に入れないようにしていました。
なので実際に鑑賞するまでは動画で紹介したスコアだけしか知らない状態だったわけです。
評価が低い作品でも好きなものもありますからね。
ということで実際に見てきた感想としては、衝撃でした。
悪い意味で。
そもそも僕はこの作品が制作された裏側を知りませんが、映画が世に出るまでにある数々のフィルターを潜り抜けてこの作品が公開されたことがある意味奇跡に思えてしまいます。
それくらい様々な個所に違和感がありました。
本作の広告では「マーベル初の本格ミステリー・サスペンス」と書かれていましたが、一番のミステリーはこの作品が世に出た背景です。
脚本の本稿と下書きを取り違えて、編集を初稿の段階でOK出さないと産まれない作品だと思います。
まだ、これが自主制作として出てくれば良かったかもしれません。
YouTubeにもスパイダーマンのファンフィルムはたくさんでていますからね。
しかしこの作品はソニーのSSU作品として出ています。
最初に話した通りSSUは大成功とはいえませんが、続く最新作がこの出来だと結構楽観的な僕でも不安になります。
ここからはヤバかった点についてそれぞれ話していきます。

 

広告の表現

まずはここから話します。
遡ること2020年。
ジャレッド・レト主演映画『モービウス』のトレイラーが公開されました。
このトレイラーを観た人たちは驚きました。
なんとそこにはサム・ライミ版スパイダーマンの壁画とその上には「MURDERER(人殺し)」の文字があるではありませんか!
SSU3作目になってついにスパイダーマンと繋がるのか!?と期待されていざ公開されると、そんなシーンはどこにもありませんでした。
映画のトレイラーでフェイクシーンが入れられることはありますが、物語に大きな影響を与えるフェイクは観客の反感を買うことになりかねません。
そしてSSU次の作品となった『マダム・ウェブ』にはこんなキャッチコピーが付けられていました。
「マーベル初の本格ミステリー・サスペンス」
どこですか?
もしかしてキャッチコピー付ける映画間違えてませんか?
これ『マダム・ウェブ』ですよ?
とまぁ、こんな感じで本作にミステリー・サスペンスの要素は見当たらず、「本格」と付けている自信がなぜあるのかも分かりませんでした。
ここまで前面に押し出すということは映画本編を通してミステリー・サスペンスになっているのかな?と思っていましたが、違いました。
どうにかミステリーにできそうなヴィランの正体は冒頭2分でわかりますし、何なら予告の時点で分かっていますし、キャシーになぜ能力があるのかも冒頭2分でわかります。
なんと映画の冒頭でほとんどの謎の答えが出てしまっています。
もしかして、お母さんが臨月なのにアマゾンでクモ探してた理由が「本格ミステリー」ということですか?
そもそも主人公のキャシーがお母さんに不満を持っている場面がほとんどない状態でお母さんの真実を知るキャシーが描かれても唐突すぎです。
僕自身は何を見せられてるんだろうと思っていると、文字通りあのシーンは笑ってしまいました。
それくらいミステリー・サスペンスの要素は見当たりませんでした。
そしてヴィランのエゼキエルですが、このキャラクターは序盤で正体が分かるのですが、その素性は逆に最後まで分かりませんでした。
基本情報がほとんど分からないまま進んでいくこのキャラクターについて少し話しますか。

 

エゼキエル・シムズは誰

本作でヴィランとなるエゼキエル・シムズはスパイダーマンのようなスーツに身を包んだ謎のキャラクターでした。
というか、謎のまま終わったキャラクターでした。
キャシーのお母さんとペルーに同行していたエゼキエルはそこで見つけた特殊な蜘蛛を独り占めするため、キャシーのお母さんを含めた全員を殺害します。
それから時は経ち、2003年。
夢の中で毎晩自分を殺害する謎の3人組を先に倒すべく、動き始めるのでした。
ペルーに同行していたエゼキエルですが、いつの間にか大富豪になっていました。
しかしエゼキエルの私生活が明かされることは無く、常に暗い部屋で3人を探しています。
ペルーで私利私欲のために殺人を犯していることから、生粋のヴィランであることはわかりますが、それ以外の情報が一切なく、本当にただ追ってくるだけの走るスパイダーマンになっていました。
テンションも一定で、マスクをしているときはどれだけダメージを受けようとも立ち上がり、声を荒げることもないまるでロボットみたいでした。
かといって、これは観客がエゼキエルの正体を知っているからなのか、それともすぐに吹っ飛ばされるからなのか分かりませんが、その存在に対する恐怖心が全然ありませんでした。
3人の少女を探し出す目的でNSAから盗み出したハイテク機器を操作する謎の女性はいったいどこから来たんですか?
作中の描写から察するにエゼキエルに脅されてやっているようでしたが、肝心のエゼキエルとの初対面シーンが無いので急に現れた人になっていました。
この点も含めて、本作は編集がおかしなことになっていたのでここからはそれについて話します。

 

おかしな編集

本当にこれは確認作業があったのでしょうか?
そう思うくらい本作の編集には違和感がありました。
ここではそう感じた不自然な編集についていくつかお話しします。
1つ目が映画全体を通した繋がりの無さです。
本作にはペルーやベンおじさんの家など様々な場所が登場します。
しかしここに至るまでに映像の連携ができていませんでした。
例えばキャシーが3人の少女をベンに預けてペルーに飛び立つ場面があります。
なんとこのシーンでは3人を預けた後すぐにペルーにキャシーがいるんです。
例えば荷造りの場面を差し込んでキャシーがペルーに行く目的を観客に明確にするなど、ペルーに行くまでの過程が無いと唐突になってしまいます。
しかし本作ではそういった考えは一切なく、シーンごとの繋がりがありませんでした。
これにより各シーンが別々のクリップみたいになっていました。
シーンごとの繋ぎをより明確にするだけでも一貫性が損なわれないので、これはとても気になりました。
キャシーがペルーに到着した後も、そこに滞在している場面がしっかり描かれないのでまるでそのままアマゾンへ直行したみたいになっていますが、3人の少女がベンおじさんと1週間生活していたことから、キャシーの旅は1日や2日の話ではないことが分かります。
しかし時間経過を省いてしまったせいで、作中の変化がなくなってしまっていました。
このシーンごとの関連性の無さが全編を通しても一番気になりました。

次が演出です。
本作でキャシーは予知能力に目覚めることになります。
そのため映画でもちらつきで場面を切り替えるような、演出が多用されていました。
これはキャシーの能力を視覚的に表す目的だったと思いますが、問題はその使用頻度です。
あまりにも多く使われすぎていくつかの場面では目がおかしくなるかと思いました。
ここで明確にしておきたいのはキャシーの能力はぼやけた光でシーンを切り替えることじゃなくて、予知能力です。
もはや終盤は予知した未来を見せる必要は無く、むしろキャシーだけが全てを知っている状態で指示出ししても観客はキャシーの能力を理解しているので成立します。
なのに頑なにあのちらつく演出を続けるのは画面を注視できなくて辛かったです。

 

そして最後がカメラワークです。
本作では大きな手振れとアクロバティックなカメラワークが顕著に見られました。
例えばエゼキエルが攻撃をするシーンではカメラが1回転するようなこともありました。
しかしこれがまた厄介で、前に話したちらつきと同じで目がおかしくなりました。
1回や2回だったら特別な演出としてそこまで気にならなかったと思いますが、本作は終始手ブレや挑戦的なカメラワークになっていました。
他にも本作では手ブレに加えてズームする所謂「Snap zoom」と呼ばれる方法が使われていました。
それも結構な量が。
このSnap zoomは結構好き嫌いが分かれる印象があります。
例えばザック・スナイダー監督は作中でこの演出を使うことが多いと感じます。
例えば『マン・オブ・スティール』では物語の序盤から結構使っていますね。
他にもJ.J.エイブラムス監督の『スターウォーズ:フォースの覚醒』でも確認できます。
好き嫌いが分かれるこの手法ですが、僕は適切な場所で使えると編集の点でリアリティが出て好きです。
本作ではこのSnap zoomが結構な頻度で使われていました。
例えば冒頭のジャングルでエゼキエルが他のメンバーを襲うシーンや最後のバトルでもありました。
本作はSnap zoomが結構たくさん使われていて、途中からはそのZoomでフォーカスしたいものが不明瞭になっていたと感じました。
これでは演出に意味がなくなってしまいます。
それにあれだけ高頻度で出されると画面酔いする人も出るかもしれません。
なにごとも適切な使用頻度が大切だと気付かされました。
そもそもなぜこの映像でOKが出たのか不思議です。
確認作業の中で誰もこれを指摘しなかったのでしょうか?
前に話した空っぽのエゼキエルやシーンの不自然な繋がりなども考えると、完成までのプロセスをできるだけ早く終わらせないといけないという成約があったのではないかと疑ってしまうくらいです。
ならばせめてメインの4人はもう少しどうにかならなかったのでしょうか?

 

マダムウェブと4人

本作はマダム・ウェブとなるダコタ・ジョンソン演じるキャシー・ウェブと後にスパイダーウーマンになる3人の少女の物語です。
しかしこの4人、というかキャシーと他3人はおかしなキャラクター性になっていました。
まず3人です。
ジュリア、アーニャ、そしてマティの3人はエゼキエルから逃げることになります。
その理由は3人が将来スパイダーウーマンとなり、エゼキエルを殺害することになるからです。
3人がスパイダーウーマンになって戦う姿はトレイラーにもありましたね。
なぜかトレイラーでは3人がスパイダーウーマンになって活躍する映画みたいになっていましたが、スパイダーウーマンになって戦う姿はエゼキエルの夢の中とラストに少しあるくらいでした。
それはもちろん本作が『マダム・ウェブ』だからです。
しかしなぜかトレイラーでは3人のヒーロー姿が多く映し出されたり、3人のヒーローとしての能力に特化したインタビュー記事が出てきたりと『マダム・ウェブ』という作品の本質を避けたような前情報になっていました。
この前情報では3人のスパイダーウーマンが活躍する映画だと思って見に来る人が出てもおかしくないと思います。
そんな3人の少女はもちろん本作では普通の人間でした。
しかし地下鉄でエゼキエルが警察官を殺害しているのを見ておきながら、逃げる途中で空腹になりダイナーで踊り始めます。
未来予知なしで3人を森に3時間放置するキャシーも大概ですが、百歩譲って空腹に耐えきれずにダイナーに行ったとしてもテーブルの上で踊るのは意味不明です。
案の定新聞を読んでいた人に通報されてエゼキエルに見つかります。
ダイナーを戦闘場所にしたくても他にやり方はあったと思いますが選んだ選択が最悪のものになっていました。
これは予知能力が無くてもより良い脚本にできていたと思います。
何なら3人が物語上でキャシーについてくるだけの人になっていたのが残念です。
せっかく3人とも異なる性格のキャラクターだったのに、本編でキャラクターの個性を生かす場面が無く、あくまでキャシーの指示に従うだけの人たちだったのがもったいなかったです。
『ソー』シリーズのウォーリアーズ・スリーのような立場ならまだしも、3人はのちにスパイダーウーマンとなる重要なキャラクターなのにこの扱いは残念です。
もういっそのことキャシーのオリジンに集中して、3人との出会いから育成は次回作で描いたほうがスムーズだったと思います。
そうすれば3人はキャシーについてくるだけの人にはならなかっただろうし、キャシーのオリジンもより丁寧に描けていたかもしれません。
なんか全体的に急いで作られた雰囲気を感じるのは私だけでしょうか?
そんなキャシーですが、作中の変化に笑ってしまいました。
最初は命を狙われている3人を家族の元に返そうとするなど人付き合いが苦手な性格でしたがエゼキエルを倒して時間が経ってからは急に悟りを開いたかのようなキャラクターになっていました。
元の性格からは想像できない変化には流石にキャシーを演じたダコタ・ジョンソンに同情してしまいます。
原作のキャラクターを考えると悟りを開いた車いす姿の目を隠したキャラクターになるのは妥当だと思いますが、流石に大幅な性格の変化をタイムジャンプだけで済ましてしまうのは雑に感じました。

 

他の選択肢

ここまで結構酷評して来ましたが、この作品にはより良い選択肢があったと思います。
それがドラマです。
本作で僕が感じたマイナス点はどれも映画の尺の都合に合わせた結果発生したものだと思います。
例えばエゼキエルはドラマにすることでよりキャラクターの背景を詳細に描くことができますし、NSAの技術を使う女性との出会いも描けます。
そして前後のシーンの連携ができていないおかしな編集はドラマにすることで穴埋めする時間が生まれます。
このシーンの繋ぎは制作段階のトラブルを疑うくらい奇妙なものになっていたので、これは完全に僕の憶測ですが、編集時に大幅なカットがあったのかもしれません。
それが映画尺の都合なのか、それとも別の何かなのか分かりませんが、尺の都合なら少なくともドラマにすることで回避できます。
3人の少女もより個々の異なる性格を引き出すことができますし、キャシーと行動を共にする中で生まれる感情もより説得力のあるものにできます。
一方で演出に関してはもっと落ち着いた感じでいいと思います。
本作の監督を務めたS.J.クラークソンはNetflixで配信されたマーベルコミック原作のドラマ『ジェシカ・ジョーンズ』と同じくマーベル原作ドラマ『ザ・ディフェンダーズ』でもエピソード監督をしています。
僕は『ジェシカ・ジョーンズ』が作品の雰囲気も含めてとても好きです。
そしてその雰囲気は『マダム・ウェブ』にも共通する箇所がありました。
『ジェシカ・ジョーンズ』はMCUのようなテンション高めのド派手アクションではなく、NYのアパートの1室から始まる物語ですが、そのような決して手に汗握るド派手なアクションではない物語が『マダム・ウェブ』を映像化するうえで必要なのかなと思いました。
S.J.クラークソン監督は劇場公開映画は初監督なのですがドラマに上手くハマりそうな作品だったので、できるならドラマで観たかったです。

 

さいごに

ということで今回は映画『マダムウェブ』のネタバレ感想をお届けしました。
本格ミステリー・サスペンスという宣伝で公開された本作ですが、まさか一番のミステリーがこの映画が公開された裏側だという皮肉に聞こえてしまうようなものでした。
ユニバースの構築を急いでいるのか、はたまた何か別の理由があるのか分かりませんが、SSUは一度体制を見直した方がいいと思います。
今年はまだ『クレイブン・ザ・ハンター』と『ヴェノム3』の公開が控えていますが、今のままでは不安が残ります。
未来の利点はまだ確定していないことですが『マダムウェブ』はもう公開されてしまいましたので、ここからのSSUの動きに注目したいです。