『デューン 砂の惑星 PART2』ネタバレ感想_壮大な世界に救世主はいるのか?

スポンサーリンク
スポンサーリンク
デューン砂の惑星Part2のアイキャッチ レビュー

Part1の復習

帝国暦10190年。
惑星カラダンはアトレイデス家によって統治されていました。
アトレイデス家の当主、レト・アトレイデス公爵はバーディシャー皇帝の命令で「デューン」という別名で知られる惑星アラキスの統治を任されました。
アラキスは「メランジ」と呼ばれる特殊なスパイスが唯一取れる惑星です。
「メランジ」は抗老化作用や意識を高める効力があり、宇宙での安全な航行をするためにも必要で、つまり「なんかヤバい粉」です。
レト・アトレイデス公爵と息子のポール、そして愛妾のジェシカ一行はこの惑星アラキスに移住します。
ジェシカは秘密組織『ベネ・ゲセリット』のメンバーです。
「ベネ・ゲセリット」は身体的、精神的な訓練で超人的な能力を得た女性のみの組織です。
ジェシカが相手を操る時に使用していたヴォイスもベネ・ゲセリットで教わります。
この組織の目的は先祖の記憶を保持し、未来を観ることができる超人「クイサッツ・ハデラック」を誕生させることです。
そのためにベネ・ゲセリットの教母はジェシカに対して「レトとの間に女の子を産みなさい」と命じますが、ジェシカはレトへの愛からアトレイデス家の後継者のために男の子のポールを産みました。
しかしポールは夢で未来を視ることができました。
教母もこれには「もしかしてポールがクイサッツ・ハデラックなのか!?」と思い始めます。
ポールに対して箱に手を入れる「ゴム・ジャッバール」を行いますが、結局ポールがクイサッツ・ハデラックなのか不明なまま終わりました。
アラキスにはフレメンと呼ばれる先住民がいます。
レト公爵はフレメンと協定を結ぼうとしますが、うまくいきませんでした。
アラキスでのメランジの採掘もサンドワームと呼ばれる巨大生物が寄ってくるため大変です。
実は皇帝がアトレイデス家に命じたアラキスの統治は仕組まれたものでした。
勢力を拡大しつつあるアトレイデス家を良く思わない皇帝が用意した戦闘部隊と、アトレイデス家以前にアラキスを統治していたハルコネン家が結託して攻撃を開始します。
アトレイデス家に仕えていたユエ医師は妻を人質に取られたことで敵を招き入れてしまいます。
結果的にレト公爵は瀕死の状態になりますが、ユエ医師が渡した毒を出す差し歯により相手の戦力を削り死亡します。
ハルコンネン軍に捕まったポールとジェシカでしたが、ヴォイスを使い何とか助かりました。
2人はポールの戦闘の指南役のダンカンに連れられて研究所に隠れますが、そこにも追ってはやって来ます。
ダンカンは命を懸けて2人を守りました。
逃げる途中で砂嵐に巻き込まれた2人でしたが、ポールの能力で何とか助かります。
その後もサンドワームに襲われそうになりながら逃げ続けるなか、フレメンに出会います。
そこにはポールの夢に現れた女性「チャニ」もいました。
協力を頼むポールとジェシカの力を知り、フレメンのリーダー「スティルガー」を含めた大多数は賛成の意志を見せますが、フレメンのジャミスは1人、それを認めません。
ジャミスはポールに対して「タハディ・チャレンジ」と呼ばれる命を懸けた決闘を申し込みます。
ポールはそれまで人を殺したことが無かったので戸惑いますが、最終的に勝利し、フレメンと行動を共にすることになりました。

ここまでがPart1の大まかなあらすじでした。
ファスト映画にはしたくないので結構省略しましたが、Part1のストーリーは結構薄かった印象です。
多くの専門用語や圧倒的な映像美によって複雑な映画にも思えましたが、整理すると惑星アラキスの統治を任されたアトレイデス家が皇帝の策略で崩壊し、ポールとジェシカが逃げるだけです。
それを約2時間半、しかも作品単体で結末まで描かない贅沢さを息をのむような映像と緻密な設定で納得させることができていました。
ただ1つ、僕はどうしても残念だったところがありました。
それが、映画館で観れなかったことです。
当時の僕がなぜ映画館で観なかったのか覚えていませんが、それからしばらくしてPart1をテレビで観たときの僕はこの音楽や映像を映画館で堪能できなかったことを後悔しました。
なのでPart2は絶対映画館で観るぞと決めていたわけです。

ここから先は『デューン 砂の惑星 PART2』のネタバレを含みます。

『デューン 砂の惑星 PART2』ネタバレ感想

念願のPart2

Part1を家で観てからずっと期待していたPart2がついに観れました。
Part1の圧倒的な映像美と説得力のある物語設定に引き込まれ、同時にこの映画を劇場で観れなかった後悔を感じ、Part2は絶対劇場で観るんだと決めていました。
それはあの映像と音、そして2時間40分かけて描かれるストーリーに浸りたかったからです。
しかし同時に少しの不安もありました。
それは僕がPart1で感じた設定の複雑さとテンポの遅さです。
これがPart2でも健在だったらと少しの不安を感じつつ、いざ始まるとそんな不安は砂嵐とともにすぐに消え去りました。
そこに広がるのは広大な砂漠を舞台にした1人の少年の物語です。
それを彩るのは体の芯に伝わる音と世界観を最大限生かした映像美でした。
Part2では一気に物語が進み、2時間40分という長い時間を感じさせないほどでした。
なんか余韻に浸りすぎていますね。
ここからは本作を鑑賞して感じたことをいくつかピックアップしてお届けします。

 

圧倒的な音と映像

Part1で驚いたことの1つは映像です。
物語の大半が砂漠で進む本作は一見地味にも思えますがそこに存在するテクノロジーとそれを最大限生かした映像には驚愕しました。
そして大迫力の映像はPart2でも健在でした。
アラキスのサンドワームはポールが乗るときも巨大な顔が目の前に現れた時も圧倒的な迫力がありましたし、これでもかと何回も起きる爆発はどれもただの爆発ではなく、それ自体が絵画の一枚のように画になっていました。
そして個人的に面白いやり方だなと感じたのが、ハルコンネンの惑星です。
この世界はモノクロで描かれ、これはハルコンネン一族の姿を反映した惑星ともいえます。
花火は墨汁によって再現され、モノクロの世界でも白を強調した映像にはどこか不気味さを感じました。
そしてこの惑星ではシールドがとても印象的でした。
普段は青と赤で表現されるシールドがこの惑星では例にもれずモノクロになっています。
なにか格段にすごい映像技術ではないのですが色合いでここまで雰囲気が変わるのかと地味に感心しました。
そしてこの圧倒的な映像に説得力を与える音も大事な部分です。
本作では様々な音がありましたが、やはり一番印象に残ったのはアラキスでの重低音です。
例えばサンドワームを呼ぶときの砂をたたく音やサンドワームに乗っているときも体の芯から感じる音の迫力がありました。
ただ、これらの音はどれも映像にマッチしていて下手に音だけが主張することがありませんでした。
どれもが自然になっていて、それはおそらく特殊な音を必要としない映画だからだと思いますが、そのおかげで作品に没頭することができました。
それくらい、音と映像に存在感がありながら映画を視覚的に語る役割に徹していたのが個人的にとても良かったです。
大迫力のビームやカラフルなエフェクトも大好きですが、砂の惑星デューンを舞台にした本作では色合いを砂漠に合わせた映像が多く、そこに補色となる青色のシールドやビームが時折登場することで特別感を演出していました。
チャニが戦闘機を撃墜するシーンではそれを防ごうとするシールドの動きと前に進もうとする弾の動きが独特な映像を作り出していました。
Part1でもあったのですが、シールドを纏った機械を破壊するときの独特な映像がとても好きです。
本作の音と映像はこの映画を一つの芸術体験とするには十分の役割を果たしていたと思います。

 

迫力の対比

ここまで本作の映像と音のすごさを話してきましたが、この映画ではそれがあるからこそ際立つものがありました。
中でもラストの決闘はこれまでサンドワームや大爆発の連続だったのに比べてナイフを使った1対1です。
特にカラフルでもない場所でナイフを当てあうのは地味になりがちですが、このシーンはある意味これまでの大迫力の映像に対するデザートのような感覚になりました。
計算されたカメラワークと洗練された無駄のない動きはむしろこれを楽しみにしている人もいるのではないかと思うほどでした。
ナイフを使った1対1が光る映画はほかにもありますが、本作は特に終盤の大迫力の映像との対比がうまかったと思います。
そしてこの決闘を行ったポール・アトレイデスとフェイド=ラウサを含め、本作の登場人物はどれも一言では表せないキャラクターになっていました。

 

複雑なキャラクター

ティモシー・シャラメ演じるポールの印象はPart2で大きく変わりました。
前作ではアトレイデス家の次期侯爵としていわゆる上流階級だったポールでしたが、奇襲によりフレメンと行動を共にすることになります。
アラキスではベネ・ゲセリットの思惑でリサン=アル・ガイブという救世主の役割を期待される中で、大勢に期待される自分と本当の自分の間で揺れるキャラクターになっていました。
フレメンはスパイスの作用で目が青くなるのですが、本作ではポールの目の色でポールがフレメンとどれくらい一緒にいるかがわかるようになっていました。
それはPart1に比べて大きく物語が進んだ本作において良い演出だったと思います。
ポールの目が綺麗な青色になったことやスティルガーやほかのフレメンとの関係から多くの時間を共にしたとわかりますがその中で芽生えたポールの決断が本作のラストへとつながります。
ポールのお母さんのジェシカを教母にした「命の水」を飲むことで過去と未来を鮮明に見ることができるようになります。
この水はサンドワームを溺死させて得るもので、ジェシカ曰く「男性では耐えることができない」ようです。
よく出産の痛みは女性にしか耐えられないといいますがそれと似たものを感じますね。
出産による変化と命の水による変化は重ねることができるのかもしれません。
デューンでは女性の平等や強さが描かれる場面があり、フェミニズム的な要素も持ち合わせているといえます。
それこそベネ・ゲセリットや教母といった自立した高い階級の女性もいますし、チャニは「フレメンは男女平等である」と言っています。
そしてベネ・ゲセリットしか解毒できない命の水を飲んだポールは母親から訓練を受けていたので解毒できるかと思われましたが、チャニの涙がポールを救った構図になっていました。
話を戻すと、命の水を飲んだポールは自分の先祖の記憶や未来を鮮明にみることができるようになりました。
そこで自分が宿敵ハルコンネン家の血を引いていることや水であふれるアラキスの未来、そして今後生まれるであろう妹の成長した姿が映し出されました。
ちなみに僕が一番驚いたのはハルコンネン家の血を引いていることより妹の姿ですよ。
今この話をするとまた脱線しそうなので後で話しますね。
ジェシカが命の水を飲んだことで変化したように、ポールの性格もこれを境に大きく変化しました。
観客にはポールが得た知識の断片しか映し出されませんが、ポール自身はこれまでの過去と未来を一気に流し込まれたため、性格の変化が起きるのも納得です。
そしてここからポールはリサン・アル=ガイブになることを決意しました。
この決断はフレメンにとって大きなものですが、ポール・アトレイデスを想うチャニにとってリサン・アル=ガイブへの変化というのはポール自身を失ったことになるとおもいます。
実際、ラストでチャニはポールの元を離れて1人で行動しています。
ここでのポールの変化と決断は人それぞれ感じ方が違うと思います。
惑星アラキスの支配を解いたポールは文字通りアラキスの救世主に見えますが、アトレイデス家を襲った皇帝とハルコンネン家だけでなく、自分が皇帝になることへ反対する諸大領家に対して攻撃で力を誇示するなど、ジャニスを殺せなかった頃の面影がないほどに変化し、もはや救世主ではなく新たな脅威だという見方もできます。
これまでポールを惑星アラキスの純粋な救世主として観ていた僕はポールの大きな変化によって、ある意味ポールが離れて行ってしまったような感覚がありました。
惑星カラダンから移住した頃のポールは完全に消えてはいないけど奥底に眠ってしまったような、これまで青年ポールをみていたからこそ、変わってしまった姿にどこか寂しさを感じました。
立場によって捉え方が変わるポールが今後どうなっていくのか楽しみです。
そのほかのキャラクターも単純ではなく、フレメンのスティルガーはポールに対して最初から好意的に接してくれるフレメンの1人ですが、リサン・アル=ガイブの伝説に狂信的になっている側面もあり、ポールのどんな行動も救世主と結びつけてしまうところに少し複雑な感情を持ちました。
リサン・アル=ガイブの伝説がベネ・ゲセリットの仕掛けた都合の良い情報操作であることがPart1で明かされているからこそ、それを純粋に信じるスティルガーが喜ぶ姿をみるたびに複雑な感情になりました。
ポールもこの情報操作を知っているからこそ、自分がどうなるべきなのかという選択にかられるわけですが、信仰心を使った策略の恐ろしさを目の当たりにしました。
この信仰心を利用しようと考えているのがジェシカですが、ここの原理主義者の多い南で行動をとるのも現実的な生々しさを感じました。
そしてPart2で初登場したフェイド=ラウサも戦闘狂的なヴィランですが、そのイカれた性格で補えない部分に隙があり、ベネ・ゲセリットにはまんまと翻弄される場面も描かれていました。
あえてフェイドが困惑する場面を描くことでイカれたヴィランとしてだけでなく、1人の人間であることを随所に感じさせられました。
どのキャラクターも行動とそれを納得させる内面の動きが綺麗に描かれていました。

 

嬉しかったこと

ここまで少し堅苦しく話してきてしまったと思うので、ここからは少し気を抜いて個人的にうれしかったこととか話していこうと思います。
まず一番驚いたのはアニャテイラージョイの出演です。
僕は本作の前情報をほとんどない状態で観たのでアニャが出てるの知りませんでした。
そのため、ポールが未来を見れるようになった驚きよりも、ポールの妹を演じているのがアニャであることの衝撃の方が強かったです。
そっちに気を取られて危うく水で満たされたアラキスを忘れるところでした。
エンドロールで名前を確認したときはアニャの名前が無かったのですが、どうやらロンドンで行われたワールドプレミアに登場していたようです。
IMDbにもノンクレジットで登録されていました。
僕はアニャがピーチ姫の声優を務めるということで英語で『スーパーマリオブラザーズムービー』を観るくらい好きな俳優の1人なので今回の登場は本当にうれしかったです。
ただ一つ疑問なのが、アニャが演じるアトレイデス家の娘が今回登場した年齢になるには少なくとも10年以上経過する必要があると思います。
となると、アニャが夢ではなく実際に登場するとなると結構後の話になってしまうのかなと思いました。
ただ、本作のラストから考えると映画やドラマでたびたびある展開としては別々の道を進んだポールとチャニが数年後に再開するということも考えられるので、Part3で大きなタイムジャンプがあれば再登場も可能なのかなと思いました。
何はともあれ予期しないサプライズは嬉しかったです。

 

日本での評判

じゃあ本作は日本で流行るのか?
どうやらPart1の評判は公開当時から賛否あったらしいです。
それもよく分かって、Part1は聞き馴染みのない専門用語の数々と脳がパンクするような世界や設定の数々、そしてスローテンポであまり進まなかったストーリーという、何重にも用意された観客フィルターがありました。
どこかのタイミングでフィルターに引っかかる人も少なくないんじゃないかなと思いました。
僕もPart1の最初の30分くらいは着いていくのがやっとだったので分かります(笑)
ただ僕の場合はそれ以降も楽しめたのですが、評価は分かれるなと思いました。
楽しい音楽や笑えるジョークもないため、そこに退屈さを感じる人もいると思います。
できれば多くの人に見てほしいけど、難しいですよね。
MCUであればエターナルズに近い雰囲気がありますが、あれも批評家のスコアが低いんですよね。
軽快なテンポと適度なユーモアがある作品の方が万人受けする感じがします。
ドラマでは『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ブレイキング・バッド』など、複雑で長い話の傑作などがありますが、海外ドラマなどに興味がない人は観ないと思うので、そういった作品に慣れていないのが理由なのでしょうか?
いろいろ理由が考えられるけど、Part1にテンポの遅さを感じた人もPart2は観てほしいです。
僕はこういう何でもない人間が周りに翻弄されて変化していく系が好きみたいです。
『ハンガーゲーム』も革命をテーマに変化していくカットニスの物語が好きでした。
もっとみてくれる人が増えるといいななんて思いますね。
Part3の公開までまだ数年あると思うので、1人でも多くの人に観てほしいです。
本当に良い作品だったから。