『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』ネタバレ感想・レビュー_ミステリーかと思ったらホラー映画だった

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ベネチアの亡霊のアイキャッチ レビュー

こんにちはシネマトレンドです!
今回はケネス・ブラナーのポアロシリーズ3作目『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』のネタバレ感想をお届けします。
例にもれず今回もネタバレ感想ということで『ベネチアの亡霊』と、過去2作『オリエント急行殺人事件』『ナイル殺人事件』にも触れるので見鑑賞の方はご注意ください!

ここから先は『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』のネタバレを含みます。

『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』ネタバレ感想

ホラー前回のミステリー

まず怖い!
そもそも予告編の段階から本作は過去作と比べてホラーテイストの強い作品になることを予感させていましたが、予想を上回るホラーでした。
もし過去作を好きで本作を見に来た人がホラー苦手だったら途中退場を視野に入れるレベルには怖かったと思います。
さて、そんなホラー要素強めで嬉しいサプライズだった本作ですが、正直本作においてこれはミスマッチだったと思います。
ミスマッチといっても、本作は殺人事件が幽霊の仕業かもしれないというきっかけで進んでいくので、そこにホラーは不可欠なのですが、なんかホラーの使い方があってませんでした。
いわくつきの屋敷を舞台に、交霊術が行われ、不可解な死が次々起こるというのはホラーにうってつけですが、なんかいまいちというかなんというか。
本作がもしホラー単体であれば面白かったかもしれませんが、ポアロのミステリーと組み合わさったときにむしろそれはノイズになっていました。
本作のホラー要素として特に目立っていたのはジャンプスケアです。
ジャンプスケアというのは、急な音や映像で驚かせるあれです。
これが本作は多用されていました。
それは本作がホラーテイストだったので当然と言っちゃ当然なのですが、正直邪魔です。
そもそもメインは謎解きであって、ポアロと共にこの事件の解決に導いていきます。
そうしたときにジャンプスケアが多用されるため、肝心の謎ときに集中することができませんでした。
それくらいジャンプスケアが多いです。
幽霊的な何かから逃げる王道ホラーであればジャンプスケアはむしろ怖がらせるために大切ですが、本作は多すぎて邪魔です。
例えるなら、集中してテストを解いているのにちょくちょく横からちょっかいを出してくるみたいな感じです。
最初は過去作になかったテイストだったのでジャンプスケアもむしろ良かったのですが、進むにつれて鬱陶しくなっていきました。
でも実はジャンプスケアは本作では特に効果的なのかなとも思っていて、ミステリーって目の前の物ごとに集中するわけで、そうすると周りが見えにくくなると思います。
そうしたタイミングでジャンプスケアは意識外から強引に入ってくる感じでむしろ効果的なのかもしれませんね。
ただ本作は多すぎるのもあってか、普通に邪魔でした。

そして降霊会です。
本作は序盤でミシェル・ヨ―演じるレイノルズ婦人が降霊会を行います。
なのですが、この降霊会は途中でポアロが種を見破ります。
勝手に動くタイプライターは隠れた助手が遠隔操作で動かしていたものでした。
じゃあそこで降霊会が終わるのかと思いきや、なんとレイノルズ婦人は強行します。
ぐるぐる回るレイノルズ婦人と渾身の声真似が披露されますが、直前にポアロにより降霊会の信憑性というのはほとんどなくなっています。
それなのになぜか参加者は信じているようでした。
その時点で僕はその茶番に付き合わなきゃいけなくなったわけです。
映画を観ている観客からするとポアロの種明かしというのは降霊会が偽物であるという強力な証拠です。
なのでその後に降霊会の茶番が続けられ、それを信じるそぶりを見せる参加者にいまいち共感できませんでした。
1つ擁護するのであれば、あの時点ではほとんどの参加者が茶番に付き合わなくちゃいけない状況だったと思います。
例えば娘の霊と話したいロウェーナはレイノルズ婦人の殺害を計画しているので、この機会を台無しにできませんし、オリヴァ夫人とポアロのボディガードは、降霊会でのポアロを本の題材にしようと手を組んでおり、フェリエ医師は過去のトラウマで精神状態が悪いです。
こういった、嘘だとわかっていても参加せざるを得ない人々が集まっていたのがこの降霊会でした。
もしかして、あそこの降霊会であえてポアロにうそを見破らせたのは、観客に降霊会自体が嘘であると示し、それでもなぜポアロ以外の参加者は信じ続けるのかについての理由から観客に物語全体の謎を解き明かすヒントを密かに提供していたのかも?
そこまで考えて制作されていたら逆に面白いかもしれません。
これを書いているうちに僕の厄介な考察癖がいたずらして話が脱線しそうなのでレールに戻しますが、劇場で本編をみている段階ではこの降霊会の茶番が残念に感じました。

 

脆い仕組みの事件

今回の事件は幻覚作用のあるハチミツが起こしたものでした。
過保護な母親が娘を支配するために精神錯乱作用のあるハチミツを紅茶に混ぜていたのですが、家政婦が知らずに大量のハチミツを入れて飲ませたことで娘は亡くなってしまいます。
それに気づいた母親はそれを飛び降りに見せかけたというのが1つ目の事件の発端でしたね。
そこから母親は事件の真相を知っている謎の人物から脅迫文を送られ、その指示の通りにお金を渡していましたと。
そして2つの殺人事件は、母親が考えた送り主候補の殺害でした。
ポアロ自身にも幽霊が見え始め、それにより精神的に参っていました。
ただ、そもそも映像限らず様々な作品が作られた現在において、SFなどではなく現実的な作品で幽霊が現れるというのは、精神的な影響によるものが多い印象です。
と言っても原作者のアガサ・クリスティーが書いていた時代はどうだったのかわかりません。
本作は『ハロウィーン・パーティ』というタイトルの原作小説をベースに映像化されているようですが、結構な改変がされているようです。
もしかしたら本作のハチミツ自体原作には出てないのかもしれません。
ただ、それでも現在においてこの幻覚剤を用いた超常現象というのは序盤から種が分かってしまい、意表を突かれずワクワクしませんでした。
過去作はアイテムに頼らずにしっかりと練られた犯行があったのですが、今回はこのハチミツありきの犯行が残念です。
結局ハチミツが分かればそこから事件の真相に大きく近づいてしまいます。
それに母親の犯行も、よく練られた計画殺人というよりも突発的なものが多いです。
最初の被害者である娘はハチミツの過剰摂取を見つけた母親が証拠隠滅を図るために行った突発的な犯行で、2人目の被害者の交霊術を行ったレイノルド婦人も何か犯行を隠ぺいする巧妙な施策がされているわけではなく、ただ窓から突き落としただけで、3人目の被害者である医者は、息子を人質にして自ら命を絶たせたわけですが、それもあまりにもギャンブルで、医者の精神状態が悪く、息子が命綱的な役割になっていましたが、それも医者が拒否したらすぐにばれかねないものです。
例えば『オリエント急行殺人事件』は乗客が団結して実行していましたし、ナイル殺人事件も計画がしっかり練られたものでした。
そうした、過去作と比べて詰めの甘い犯行が本作の謎解きにいまいちワクワクを感じなかった要因だと思います。
そして、一番不満だったのが脅迫文です。
本作において脅迫文というのは、2つの事件を引き起こすことになった重要なアイテムです。
なのですが、それが一切登場しませんでした。
確かに脅迫文自体を作品に登場させてしまうと、書かれている内容の特性上、犯人に簡単に近づきすぎてしまうと思います。
なので終盤のポアロの謎解き披露のタイミングで出したと思うのですが、ここがすごいもやもやします。
というのも思い出してほしいのですが、過去作は謎解きまでの間に犯行の理由を思わせるものがありました。
例えば『オリエント急行殺人事件』では乗客全員に関係のあるアームストロングの事件が途中で語られましたし『ナイル殺人事件』ではサイモンの金銭事情が序盤に語られます。
このように犯行の動機に結び付く要因が明確に作中に登場していたのですが、本作でそれが登場するのは終盤のポアロの推理です。
これでは観客が推理をする上で最重要になる要素が欠けた状態になってしまいます。
ポアロが解けても、それはメタいですが名探偵の主人公だからです。
しかし観客に謎解きのための重要な考察材料が提供されていない状態で答え合わせになってしまうので、そういった意味では過去作とは比べ物にならないほどミステリーとして不親切に感じました。
とはいっても過去作も上映時間1時間半で謎を解ききるのは難しいくらい難解なものになっていたので、自分で考えずにポアロの名推理を聞くということではこれも1つの在り方なのかもしれませんね?

 

ブークの存在

皆さん覚えてますか?ブークのことを。
ブークと言えばポアロの友人で、過去作では事件の前に必ず出会い、なんならブークの周りで事件が起きるという人物です。
僕は過去作の中でブークが好きでした。
『ナイル殺人事件』で亡くなってしまったときはブークロスが起きるくらいには好きでした。
そんなブーク不在の1作目になる本作に交霊術や幽霊が登場するということで密かにブークの再登場を期待していた自分がいました。
結果的に出なかったのですが、本作はブークの不在による影響が結構大きかったと思います。
ブークは過去作でポアロを事件に導く役割だけでなく、作品にユーモアを与え、シリアスな緊張した空気を和らげてくれる人物でもありました。
ブークのおかげで作品の雰囲気に良いバランスができていたと思います。
しかし本作ではブークがいないせいか、終始物語の雰囲気が重かったです。
別の作品であれば重い雰囲気の物語も全然大好きなのですが、ポアロシリーズの場合は過去作のイメージもあり、ブークがいることが当たり前になっていたのでブークがいないことの喪失感がどうしてもありました。
特に本作はポアロが探偵業を引退しているということもあり、事件に対しても最初は乗り気ではありません。
さらにハチミツの作用により精神的に参っているので、元気なポアロにもなっていませんでした。
そんなこともあり、本作は終始暗く、さらに過去作のような劇的でもありませんでした。
例えば『オリエント急行殺人事件』は推理を披露するときに、最後の晩餐を意識した構図に乗客を並べたり『ナイル殺人事件』では最後の愛のための選択によって余韻の残るラストになっていました。
その点本作は余韻が欠けていました。
なんか全体的にこれまでのポアロシリーズとは違った作風になっていたと思います。
細かく見ていくと他にも過去作と大きく違う点がありそうですが、少なくとも今あげたものの影響だけでも過去作ほど楽しむことができなかったです。
そして次にあげる不満点は作品の評価自体にそれほど影響を与えないものの、個人的に残念だったものです。

 

長回しとフィルム撮影に映る風景

ケネス・ブラナーのポアロシリーズには過去作に共通することがありました。
それが長回し、そして65㎜フィルムでの撮影です。
まず65㎜フィルムについてです。
最初に言っておくと僕はカメラについての知識は少なく、そこまで違いは判りません。
そんな僕でも分かるのがのが35㎜フィルムと65㎜フィルムの色の違いです。
65㎜フィルムは35㎜フィルムに比べて彩度が高く鮮やかな印象です。
その鮮やかさは1歩間違えたら絵画や作り物に見えてしまいそうなくらいのものもあります。
映画を作る過程でカラーグレーディングと呼ばれる映像の色味を調整する作業がありますが、そのタイミングで彩度が調整されるとその特徴はより強調されます。
ケネス・ブラナーのポアロシリーズは過去作において35㎜フィルムと65㎜フィルムの2つを使用していました。
それは映像からも伝わってきます。
それに加えて、これはフィルムの性質か、それとも編集段階で手を加えているのかわかりませんが、少し古い質感の映像になっています。
これは物語が描かれる1900年代の服装も相まってより一層レトロを感じさせます。
この性質は特に外の撮影での建築物や空の質感からよく伝わります。
ただ『ベネチアの亡霊』では撮影はデジタルで行われました。
そこの違いを大きく感じました。
個人的にケネス・ブラナーのポアロとフィルム撮影はあっていたと思うので、少し残念でした。
ただ、本作は水の都ベネチアを舞台にしていますが、外の風景が映ることはあまりなく、ほとんどは屋敷の中で物語が進んでいくので、過去作ほどフィルムの特性を必要としなかったのかな?とも思います。
ただ、これは僕の錯覚かもしれませんが、特に冒頭のベネチアの街が映るシーンは編集がされているようで、フィルムに近い質感になっていたので、どうにか過去作の特徴を残したかったのかもしれません。
2つ目が長回しです。
これも過去作に共通していたものです。
「長回し」というのはカットを行わずに1ショットで撮影することです。
英語ではロングテイクと呼ばれたりします。
この長回しはカットをせずに1回で撮るため、俳優の動きもすべてが計算されており、その緊張感から生まれる他とは違う特殊なショットが魅力です。
例えば『オリエント急行殺人事件』ではポアロが列車に乗るショットで他の乗客の前を通り過ぎていくのですが、そこが長回しになっていました。
ただ本作は長回しが無かったと思います。
そこも期待していたので、残念でした。
エンドクレジットではベネチアの空撮の長回しがありましたが、まさかそれが本作のロングテイクだって言いませんよね?
過去作のロングテイクは綿密に計画された、俳優やカメラマンを含めた制作陣が一心同体になるのに興奮したわけです。
確かにベネチアの空撮も終盤のポアロと相談者の演技もありますが、過去作ほどの計画性はありませんでした。
ロングテイクはその特性上、撮影にかなりの労力が必要です。
そうしたときに俳優が多くいる撮影で使わない決断をしたのでしょうか?
これら2つは過去作で好きだった特徴なので残念です。
大きく物語の出来に影響するものではありませんが、欲を言えば本作でも見たかったです。

 

さいごに

今回はケネス・ブラナー版名探偵ポアロシリーズ第3作『ベネチアの亡霊』のネタバレ感想をお届けしました。
なかなか期待通りの作品ではなかった本作ですが、ちょっと僕が気になるのが日本での人気度です。
というのも、僕が映画館で観れたのが公開から5日後のレイトショーだったのですが、貸し切り状態で僕1人しかいませんでした。
ピンポイントで場所を言ってしまうのはリスクがあるので避けますが、本作が上映されていたシアターは座席数200とそこまで小さくありません。
そこに1人だったので、本作の予想以上のホラーによるドキドキと、ポアロシリーズが今後日本でどうなっていくのかという心配のドキドキがありました。
何とか日本でもより多くのファンを獲得してほしいです。
ということで最後までご覧いただきありがとうございました!
もしよろしければ高評価・チャンネル登録よろしくお願いいたします!
それでは次の動画でお会いしましょう!